日常の終わり

6/12
前へ
/302ページ
次へ
 鏡の前で一分ほど自分を見つめていたことに気づき、慌てて持ち物を鞄にしまいこんだ。  ベッドに投げつけられていたスマートフォンに気づき、拾う。画面を開くとあのメール。  広臣は何も考えずにメールを削除した。もちろん受信拒否も忘れない。  これで忌々しいものとはお別れだと、気分をよくして部屋を出た。  ダイニングに行くとまだ妹が朝食をとっていた。どれだけ時間をかけるんだと言いたいが、女子のだからしかたないのだろう。 「兄ちゃんいってらっしゃい。車とかに轢かれないように気をつけてね」 「大丈夫だ。兄ちゃんは本気で走ると車より早いから轢かれることはない」 「それなら短距離選手になったらよかったのに」  そうだな。と冗談っぽく相槌をして玄関に向かう。  広臣は陸上の長距離選手だったのだが、短距離が苦手だったわけではない。それどころか同じ陸上部なら短距離でも一番の自信がある。  ただ長距離を選んだのは、短距離より苦手だったから。そして長距離は自分の限界を超えても走り続けることに快感さえ覚えるのだ。  性的な意味ではない。ランナーズハイとでもいうのだろうか、自分が限界を超えようとしているのだ好きなのだ。ただ短距離走はそれが一瞬で終わってしまい、よくわからないのだ。  昔は野球だのサッカーだのやっていたのだが、集団のプレイというのは周りに気を使いすぎて思うように動けないのだ。  上手いからといって勝手な行動もとれず、一人が上手いからといって勝てるわけではない。かと言って負けたのを人のせいにしてしまう自分が嫌いだったからやめたのだ。  そう考えると最近運動不足だ。明日から朝はランニングでもしよう。  玄関に放置されている運動靴もボロボロだが愛着がわいて捨てるに捨てれずにいた。  広臣はこいつもまた履いてやろうと思いながら、最近購入したまだ新しいスニーカーを履いた。 「行ってきます」  小さな声でそう言い、玄関を開ける。  朝日が眩しく、目を細める。今日も快晴だ。  夏らしく蝉が鳴き、朝ながら日が眩しい。北の方向には大きな積乱雲が見える。  まだ一通りの少ない路地を歩く。図書館までは歩いて10分程度だ。
/302ページ

最初のコメントを投稿しよう!

521人が本棚に入れています
本棚に追加