阪口さんの戸惑い

7/11
前へ
/373ページ
次へ
大野くんが私の方に歩き出す。 その眼差しは、あまりに真っ直ぐで、何かを訴えてくるみたいで。 私は目をそらすことも出来ず、席に座ったまま、凍りついた。 「…なあ…」 私の机に、大野くんの手が置かれる。 そして、そのまま顔を近づけてくる。 息がかかるかというくらいの距離から覗きこまれ、私の胸はドクンと大きく震えた。 「…っ……」 大野くんの目に私が映っている。 初めて間近で見た彼の瞳は、驚くくらい深い、綺麗な黒色だった。 「…お、大野く…ん…」 「どうなんだよ…」 「…え…と…」 「モテそうとか、好きなやつ居るかもとかじゃなくて… お前は、俺をどういう風に見てんだよ?」 「……っ…」 問い重ねてくる大野くんに対して、上手く返事を出来ない。 胸の鼓動が、鼓膜を破るかと思うくらいうるさい。 いつもより何百倍も速く巡っているように思う血液が顔を火照らせ、頭を真っ白にする。 …これは、大野くんのせい。 大野くんが、こんなに近いから。 こんな風に見つめるから。 声が、いつもより低く感じるから。 大野くんが目の前にいるだけで、全部いっぱいいっぱいになっちゃうよ。 そして、それは恐いからだけじゃない。 私は―――…… 「…わ、私…は… 大野くんのこと、 すごくカッコいいと思う……よ……」 「………」 「…強くて…男らしくて…。カッコいいよ?」 「……本気かよ…」 「……ん」 「……チッ…」 大野くんは、唇を歪ませた。 いわゆる『苦虫を噛み潰したよう』に見える表情に、私は顔から血の気が引くのを感じた。 え。 もしかして、今の答えまずかった? 「…あ、あの…大野くん、その…ごめんなさ…」 「――――だったら…」 大野くんの声が、私の謝罪にかぶる。 そして…
/373ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1766人が本棚に入れています
本棚に追加