阪口さんの好きな人

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「……亜佳梨ちゃん。今は、お医者さんと君のおばあちゃんのことを信じて…。お母さんたちは、こっちに向かっているんだろう? …さ。座って待っていよう…」 「………はい」 長居さんは私がうなずくのを確認してから、大野くんを見やった。 「……君は、電話に出てくれた?」 「…はい。阪口さんのクラスメイトの大野といいます。 ……あの、俺もいてもいいスか?」 「…ん、んー…」 長居さんが私に目を戻す。 伺うような眼差し。 だけど、大野くんに支えられるようにして立つ私に何かを感じたのか、深くうなずいた。 「…君さえ良ければ、よろしく頼む。 わしも、亜佳梨ちゃんのご両親が来るまでは居るつもりだから、何でも遠慮せずに言ってくれ…」 「…はい。ありがとうございます」 大野くんは長居さんに頭をさげる。 そして、私を導くようにして長椅子に2人で腰掛けた。 「…じゃあ、亜佳梨ちゃん。わしは、ちょっと家族に電話してくるから、2人で待っていてくれ」 「は、はい…。 長居さん、本当にありがとうございます…」 長居さんがいなくなると、廊下の冷たさと静けさが一層増した気がする。 おばあちゃんの容態について、否定的な言葉ばかりがどんどん沸き上がり、頭を巡っていく。 気づけば、また身体や手足が震え始めていた。 こらえようとすればするほど、震えは大きくなっていく。 …怖い。 どうしようもなく、心細い。 だって今まで、怖いときや不安なとき、そばにいてくれていたのは、おばあちゃんだったのだから。 「………う、……ううっ…」 「……… 阪口さん」 「……っ…」 震える手が、そっと包み込まれた。 大きく、少しひんやりした手。 でも今は私の手が緊張で冷えているのか、温かく感じる。 「………大野くん……」 「……………」 大野くんは何も言わず、私の手を握った。 …少しの間がおかれ 逡巡するようにかすかに手が動いたかと思うと 「……………」 震えをおさめようかとするように、指と指がからめられた。 温かさが強く強く伝わってくる。
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