阪口さんの好きな人

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(…大野くん?) 不思議に思って、目をこらして更に表情を伺う。 大野くんは眉間にシワを寄せ、何か悩んでいるみたいだった。 …悩んでる? ううん、なんか違う気がする。 それより、もっと… 「………」 大野くんの唇がかすかに動く。 それは、ほとんど声なき声。 音としては全く聞こえない。 でも その表情と唇の動きで わかった。伝わってきた。 大野くんの言葉。 ―――大丈夫。 きっと、大丈夫。 どうか 大丈夫で、ありますように… 「……………っ…」 ―――――大野くん。 祈るように、じゃない。 祈って、くれていたんだ。 会ったこともない、私のおばあちゃんのために。 自分のことばかりでいっぱいいっぱいの私のために。 また私の視界は涙で歪む。 大野くんの姿が涙でゆらゆら揺れて見えた。 だけどそんな中、彼の手がかすかにではあるけれど震えていることに気づいた。 (……私、本当に……だめだね……) 大野くんのことすごいとか、強いとか。 大野くんが居てくれて良かったとか。 そんな自分に都合のいい言葉ばかり並べて、寄りかかって満足して。 こんなに優しい人が、不安にならないわけないじゃないか。 全く恐くないわけない。 精一杯、頑張ってくれているんだ。 私を支えようと、強くなってくれているんだ。 私… 彼の優しさと、思いやりを、当たり前に思っていた。 私の思っている以上に、大野くんは優しい人なのに。 「……大野くん……」 私はそっと握られた大野くんの両手に触れた。 今度は、その優しさを私が守りたいと思ったから。
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