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「…ごめんね、待たせちゃった」
「…いや。別に」
「ありがとう…。
…あ。え、それ、お花? もしかしておばあちゃんに?」
阪口さんが持っている花束に気づく。
隠す理由もないので、素直にうなずいた。
「えー!
そんな…いいのに。ごめんね、気を使わせたみたいで。
でも、ありがとう! おばあちゃん、喜ぶと思う。お花大好きだし…」
「……」
まるで自分が花を受け取ったみたいに喜ぶ阪口さん。
そんなところからも、彼女とおばあさんの仲の良さがよくわかる。
…あのときはどうなるかと思ったけど
おばあさんが無事で、本当に良かった。
阪口さんは、こうして明るく笑っているのが一番いい。
「…じゃあ、行こう。大野くん」
この笑顔が守れるなら、俺は何でも出来る。
本当に、そう思った。
* * *
駅から10分くらい歩いて病院につく。
ここに来るのは2回目。
1回目…おばあさんが倒れて駆けつけたときは、ひどく重く恐ろしい雰囲気に見えたけど、今はそんなことはない。
落ち着いた気持ちで入る建物は、確かに病院独特の空気やひんやりした肌触りはあるものの、清潔できちんとした場所。
ここってこんなだったっけ、と内心少し驚いていた。
あのとき、いかに自分がいっぱいいっぱいだったかがよくわかる。
「…おばあちゃんの病室は5階なの。エレベーターで行こう」
阪口さんが先導して、受付の向こうにあるエレベーターへと向かった。
途中横切った待ち合いのソファには何人かの人が座っている。
総合病院の多くは基本的には午前しか診察がないと聞いたことがあるけれど、例外もあるのだろうか。
「……あ」
―――ん?
そのソファの方から、驚いたような声が聞こえた。
思わず、視線をそっちに向ける。
阪口さんも気づいたみたいで、前をゆく頭が、ふと向きを変えた。
「……あ!」
そして彼女も驚きの声をあげた。
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