1766人が本棚に入れています
本棚に追加
「……おれのことより、2人はどうしたの? 診察じゃないよね。お見舞い?」
「あ、は、はい。実は私のおばあちゃんが入院していて…」
「え、そうなの。……大変だね」
「いえ、もう大丈夫です。軽い心臓発作だったんですけど、すっかり回復して、来週には退院なんで…」
「……そう。それなら良かった」
『心臓発作』と聞いたとき、花倉さんの表情が少しだけ強張ったように見えた。
でも、阪口さんは何も気づかなかったみたいだし、当の花倉さんもニッコリ笑って『それじゃあ…』と待ち合いの方に戻っていったので、俺は何も言わなかった。
…それにしても
こんなところで会うなんて思わなかった。
正直に言うと、花倉さんには僅かではあるもの苦手意識が残っている。
多分、その理由はあの人も阪口さんに気があるように見えること。
もちろん、本当のところはわからないけど。
(……嫉妬とか……カッコ悪いな、俺……)
阪口さんには聞こえないように、小さくため息をついた。
* * *
おばあさんが入院しているのは5階にある4人部屋。
始めは個室だったらしいのだが、今週の頭に大部屋に移動になったらしい。
もっとも、同室の人の移動や退院で、今はたまたまおばあさん一人しか部屋を使っていないとのことだ。
「…だから、あんまり気を使わないでいいからね」
阪口さんはそう前置きして、病室の扉を開けた。
まず目に入ったのは、カーテンで仕切られた4つのベッド。
そのうちの3つはカーテンが開かれ、無人であることがすぐにわかった。
阪口さんの言う通りだ。
唯一閉まっているのは、部屋の奥の窓際のもの。
阪口さんはそこに行くとカーテンを開き『おばあちゃん、来たよー』と声をかけた。
最初のコメントを投稿しよう!