大野くんの失敗

7/12
前へ
/373ページ
次へ
「…大野くん?」 「は、はい…」 「あらあら。あんまり緊張しないでね。亜佳梨ちゃんと話すときくらいの気持ちで居てくれていいからね」 「…はあ」 気遣いは嬉しいけど、さすがにそれは無理だ。 大体、阪口さんと話すのだって、未だにめちゃくちゃ緊張する。 「ね、大野くん。あらためて、今回のこと、ありがとうね。 亜佳梨ちゃんを支えてくれていたんですってね。 …あなたがいなかったらどうなっていたかって、…亜佳梨ちゃん、本当に感謝していたわ。もちろん、わたしもよ」 「いえ。…本当に俺は何も…。あのときは無我夢中だったし…」 それは心からの本音。 あの日は必死で、今となってはどうしてあんなことが出来たのかよくわからない。 ただただ、阪口さんを支えたい、守りたいとそれだけだった。 …内緒だけど 家に帰ってから、反動が起きたのか腹が痛くなってしまったくらいだ。 「…ふふ。長居さんの言っていた通り、大野くんって見た目によらず真面目なのね。 …あのね。 そうやって、あの子のために無我夢中になってくれるなんて、わたしはとてもありがたく思っているのよ……」 それまで微笑みながら話していたおばあさんが、急に寂しそうに目を伏せた。 声も、なんだか沈んでいるようだ。 「……亜佳梨は、両親が留守がちだったせいか、あまり自分から甘えるのが上手じゃないっていうか。 ぽーっとしている割に、強情なところがあるのね。一人で頑張ろうとするの。頼りないくせにねー…」 「………」 そんなことない、と言えない自分が申し訳ない。 「あの子ね、…『寂しい』って言うのが、苦手みたいで…。それは、わたしたち家族にも責任があるんだけど。 寂しいときに『寂しい』って言わせてあげられなかったから。 そんな感じで肝心なときにあんまり人に頼らないから… だから… 大野くんが亜佳梨を一生懸命に支えてくれたって聞いて、わたしはとても嬉しかったのよ」
/373ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1766人が本棚に入れています
本棚に追加