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「…大野くん?」
「は、はい…」
「あらあら。あんまり緊張しないでね。亜佳梨ちゃんと話すときくらいの気持ちで居てくれていいからね」
「…はあ」
気遣いは嬉しいけど、さすがにそれは無理だ。
大体、阪口さんと話すのだって、未だにめちゃくちゃ緊張する。
「ね、大野くん。あらためて、今回のこと、ありがとうね。
亜佳梨ちゃんを支えてくれていたんですってね。
…あなたがいなかったらどうなっていたかって、…亜佳梨ちゃん、本当に感謝していたわ。もちろん、わたしもよ」
「いえ。…本当に俺は何も…。あのときは無我夢中だったし…」
それは心からの本音。
あの日は必死で、今となってはどうしてあんなことが出来たのかよくわからない。
ただただ、阪口さんを支えたい、守りたいとそれだけだった。
…内緒だけど
家に帰ってから、反動が起きたのか腹が痛くなってしまったくらいだ。
「…ふふ。長居さんの言っていた通り、大野くんって見た目によらず真面目なのね。
…あのね。
そうやって、あの子のために無我夢中になってくれるなんて、わたしはとてもありがたく思っているのよ……」
それまで微笑みながら話していたおばあさんが、急に寂しそうに目を伏せた。
声も、なんだか沈んでいるようだ。
「……亜佳梨は、両親が留守がちだったせいか、あまり自分から甘えるのが上手じゃないっていうか。
ぽーっとしている割に、強情なところがあるのね。一人で頑張ろうとするの。頼りないくせにねー…」
「………」
そんなことない、と言えない自分が申し訳ない。
「あの子ね、…『寂しい』って言うのが、苦手みたいで…。それは、わたしたち家族にも責任があるんだけど。
寂しいときに『寂しい』って言わせてあげられなかったから。
そんな感じで肝心なときにあんまり人に頼らないから…
だから…
大野くんが亜佳梨を一生懸命に支えてくれたって聞いて、わたしはとても嬉しかったのよ」
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