大野くんの失敗

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「…なーにボンヤリしてんだよ。 オレの話なんて興味ありませんってか? なあああっ、大野ォ!?」 「…っ…」 浪江がおもむろに踏み出し、俺との距離を詰めてくる。 早さに怯み、脚が一瞬すくんでしまった。 その隙にに右腕を振りあげ、顔面に殴りかかってくる浪江。 「……ひ…っ…!」 何とか寸でのところで、身体を捻るようにしてそれをかわす。 拳の風圧で肌がピリッと痛んだ。 俺は転がるように駆け出し、ヤツから大きく離れた。 (あ、危ねえ、危ねえ、危ねえーーー! 恐え、マジで恐え! 泣きそう!!) 内心は大騒ぎの、大混乱だ。 どうして駅のホームでこんなことになっているんだ。 「…けっ。逃げんのが上手いのは変わんねーな。テメエはずっとそうやって逃げてきたもんなあ!? でも、なあ、大野! いつまでもそうやってオレから逃げ続けられると思うなよ。 1年前の借り、テメエに返すまで見逃してやる気はねえからな!」 「…………」 ギラギラした目で浪江が俺を睨み、捉える。 俺はまさに蛇に睨まれた蛙状態だ。 何とか踏ん張ってはいるものの、脚が震え、声も出せない。 …情けない。 「…黙りかよ。それとも、またはぐらかして逃げるつもりか? でも、今回はそうは行かねえぜ。オレにも考えがある。 お前は自分からオレに向かってくるようになるからな!」 「…え…!?」 ――――パアッンッ………! 浪江が声をあげて笑い出したのと同時に、電車がホームに滑り込んでくる。 …助かった。 俺は浪江に背を向けて走りだし、一番端の車両に乗り込んだ。 浪江は追ってこない。 「…覚えていろよ、大野! オレから逃げ続けているとどうなるか、思い知らせてやる…!」 ただ、悦に入ったような笑い声が、いつまでも響いていた。
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