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「…女子、着替えは終わった? 入っていいですか?」
閉められたふすまを控えめに叩く音がした。
声の主は、多分花倉先輩。
茶道部には運動部のように更衣室がないので、男子は隣の空き教室で着替えていた。
なんだか格差を感じるけれど、女子の方が圧倒的に多いから、許してほしい。
男子は全員で3人しかいないのだ。
私達はお互いの格好を軽くチェックしあって、大丈夫だと判断してから『どうぞ』とふすまの外に声をかけた。
すぐにふすまが開き、やはり着物姿の男子たちが入ってくる。
途端、男女両方から『おおっ』と声が上がった。
「いーじゃん、いーじゃん。女子の着物、いい感じじゃん」
「そっちこそ。かっこいーよ」
よく知ったメンバーなのに、初対面のようにはしゃぐ部員のみんな。
普段、機会のない和服姿のせいか、見慣れた相手がまるで別人みたいに新鮮に目に映る。
おまけに着物を着ると、妙に色っぽく見えるっていうか…
何となく気恥ずかしくなって、ついついうつむいてしまった。
「……阪口さん」
そんな私に、花倉先輩が近づいてくる。
先輩とは病院で会って以来、一対一で話すことがなかったので少し緊張してしまう。
あのとき、先輩の触れてほしくないことを見てしまった気がした。
でも、花倉先輩はそんなことなかったかのように、いつも通りに笑っている。
「…阪口さん、着物よく似合うね」
「あ、ありがとうございます。花倉先輩も、似合ってます」
「ありがとう…」
そう言って、笑みを深くする先輩。
お世辞でもなんでもなく、着物は先輩に本当によく似合っていた。
先輩の少し儚い雰囲気が際立って、とても綺麗に見える。
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