1766人が本棚に入れています
本棚に追加
「…あ! 花倉くん、また亜佳梨ちゃんを口説いてるー」
からかうような声があがり、着付けをしてくれた松屋先輩が抱きついてくる。
松屋先輩は、冗談っぽく私に頬擦りをした。
「花倉くん、最近亜佳梨ちゃんばっかりじゃない? 特別扱いしてる感じー。
あやしーなー」
「ま、松屋先輩…」
「何があやしいの。真面目に部活に来てくれるのが阪口さんしかいないから、そうなるんじゃないか。
…ねえ、阪口さん?」
「え、は、はあ…」
…そんな答えにくいこと聞かないでください。
他の部員の手前、ハッキリ肯定するわけにもいかず、曖昧にうなずいた。
花倉先輩は、私を見ながらふっと目を細める。
「…でも、阪口さんが特別なのは、当たってるけどね」
…え?
「えー!! 何それ、花倉くん、どういう意味ー?」
「別にー。そのままの意味」
花倉先輩は、普段の笑顔と違い、悪戯っ子みたいにあどけなく笑うと、他の部員の輪の中に入っていってしまった。
残された私は呆然とするだけ。
「亜佳梨ちゃん、今のどういうこと?
花倉くんと付き合ってるの?」
「ま、まさか…! ないです」
松屋先輩が興味津々という感じで詰めよってきて、私は慌てて首を振る。
松屋先輩は、面白いスクープを掴んだとばかりに興奮ぎみだ。
そんな私達の様子に他の部員も『どうしたの』と集まってきた。
「あのさー、今花倉くんが亜佳梨ちゃんにー……」
「えー!」
「なにそれ、告ってんの!?」
「いいなー、うらやましい!」
「あかりん、付き合わないの?」
「付き合っちゃいなよー!」
「……ないです!
あ、わ、私…ちょっとクラス展示の方を見てきます! 自分の茶席までには戻りますから…」
…もう。
どうしてこんなことになっちゃうの。
松屋先輩たちの一足早いお祭りから逃げるように、部室を飛び出した。
最初のコメントを投稿しよう!