阪口さん、秘密を知る

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「…それより、アンタのその格好…」 「え? あ、着物? 茶道部の出しもので…、ね。普段着ないから恥ずかしいんだけど」 「……」 大野くんは何も言わずに私を見ている。 …そんなに真っ直ぐに見られたら、顔が火照ってきちゃうよ…。 「ど、どう? 綺麗でしょ…なーんて」 「綺麗だ」 「!?」 冗談で言った言葉に真面目な顔で返されて、思わずひっと息をのむ。 火照っていた顔が一気に火がついたみたいに熱くなった。 大野くんも気づいたのか、真剣な表情のまま、顔だけを赤く染め上げた。 「…何だよ。アンタが聞いてきたんだろ! だから俺っ…俺は……その……」 「う、うん。ご、ごめん。あ、あれだよね。着物が綺麗だー、み、みたいな…ね」 「いや、違う…! あ、着物も綺麗だけど、でも…そうじゃ…なくて… 綺麗なのは、その………」 「「…………」」 とうとう私たちは向かい合ってうつむいたまま、黙ってしまう。 ドクドクという鼓動だけがうるさく耳の中で響いている。 やがて 恥ずかしさに耐えきれないというかのように、大野くんがベンチから立ち上がった。 「っ、俺、帰るわ…っ! この星の飾り、クラスのやつに渡してくれ。俺が作ったことは黙って…」 「あ、大野く…! ま、待って…!」 瞬く間に走り去ろうとする背中を、咄嗟に呼び止める。 大野くんは足を止めて、首すらも赤くなった顔で振り返った。 「あ、あの…あのね、学園祭、茶道部に遊びに来てね。私、お茶をたてるから。 それで、そのあと……一緒に……その、一緒に回らない?」 「…………」 「……いい?」 いくらかの間のあと、大野くんはゆっくりうなずいた。 「…俺で、良ければ…」 そう言って、今度はゆっくり歩いて、中庭を立ち去る。 去り際に、 「…茶道部とクラスと、両方あって忙しいと思うけど、無理すんなよ…」 そう温かさを感じる声で言ってくれた。
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