阪口さん、秘密を知る

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そのあとは茶道部に戻り、茶会のリハーサルをした。 本番のように、先輩方をお客様として、和菓子を出して、お茶をたてる。 しっかり勉強したつもりだったし、練習もそれなりにこなしてきたはずだけど、それでも反省することばかり。 慣れない着物だということや、学園祭みたいな大きいイベントでお茶を立てるのは初めてだということもあり、緊張で思うように上手く出来なかった。 特に、途中で何度か手順が頭からスポンと抜けてしまい、手が止まったのは痛かった。 リハーサルということで先輩たちが小声で教えてくれて助かったけど、本番はこうはいかない。 一番最後に、流れるような見事な所作でお茶をたてた花倉先輩を見て、もっと頑張らないといけないと心から思った。 * * * 「…阪口さん、お疲れ様」 リハーサルが終わり、着替えてから、片付けをしている私のところに、花倉先輩がやって来た。 片付けは1年生の仕事なので、上級生はもう帰ってもいい決まりになっている。 でも、花倉先輩は私の隣に立ち手伝いを始めた。 「わ、は、花倉先輩…! いいです、これは私の仕事ですから…」 「いや、手伝わせてよ。 …このあと、阪口さんに話があるんだ」 「…話…?」 キョトンとする私の耳元で、花倉先輩が小さくささやく。 かすかに先輩の吐息がかかって、ドキリとした。 「みんながいると出来ない話。 このあと、少し残ってくれる? 2人だけで話がしたい…」 花倉先輩は、いつもより親しみやすい、あどけない顔で笑った。 どこかで見たことがある顔だと、頭の片隅で、ぼんやり考えていた。
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