阪口さんの気持ち

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おばあちゃんは、そんな私を見て『そう』と短くつぶやく。 穏やかな笑顔はそのままで、私はなんだか胸が温かくするのを感じた。 …焦らなくていいと言われている気分だった。 「…亜佳梨ちゃんも、もう高校生だものね。 周りを頼らず、自分でちゃんと考えた方がいいことも、出来てくるわよね」 「…う、うん…。そう…かな」 「大丈夫よ。亜佳梨ちゃんは、ボーッとしてるけど、やるときはやる子だもの。 きっと、解決出来るわよ」 「……」 悩みの内容を知らないせいで、ちょっぴり的はずれなおばあちゃんのアドバイス。 でも、その気持ちがとても嬉しかった。 「だけど、もし相談したくなったら、いつでも話してね。 ばーちゃん、亜佳梨ちゃんの味方だから」 「…うん。ありがとう、おばあちゃん…」 「それと…」 「?」 おばあちゃんは、片眉をあげて悪戯っぽく笑う。 「自分の気持ちを一番大事にね」 「え!」 …あれ。 おばあちゃん、実は何か気づいてる? 「…あ、あの…おばあちゃん…」 尋ねようとすると、玄関から『ただいまー』とお母さんの帰宅した声が響いてきた。 なんて絶妙なタイミング。 おばあちゃんは『はいはい』とお迎えに行ってしまう。 「……はあ…」 キッチンに残された私は、ひとりため息。 この悩みが解消されるのは当分先になりそう。 …でも。 『自分の気持ちを一番大事に』か。 そうだよね。 どうして大野くんは告白してくれたのか?とか 私の返事で大野くんはどう感じるか?とか そんなことばかり考えていたけど ―――きっと、本当に考えないとだめなのは 私が大野くんを、どう思っているか。 カッコいいと思う気持ちは本物だけど これは恋か。 これから恋になりそうなのか。 それが大切なのかもしれない。
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