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―――次の日。
朝から、非の打ち所のない晴天だった。
空は青く澄みきっているし、風も最近の残暑が嘘みたいに爽やかで清々しい。
まだ低い陽射しが、木々の緑の隙間からこぼれ落ち、地面にゆらめく影絵を浮かび上がらせている。
時折耳に入る鳥のさえずりも、心なしか浮かれているように思えた。
…そんな気持ちのいい朝なのに。
通学路を行く、俺の足は重い。
(…ほとんど眠れなかった…)
阪口さんに告白したことを思い返し、今さらのように照れくさくなり、これからの不安にため息をつく。
膨らむ後悔と、それでもわずかに残る期待と達成感。
そんなもので一杯になった俺は、まともに睡眠を取ることも叶わず、昨夜は布団の中でゴロゴロ転がり回っていた。
…我ながら、情けない。
(…しっかりしろ。昨日、天満とも話したじゃねえか。勝負はこれから。
阪口さんに、きちんと俺のことをわかってもらうんだ…)
小さく拳を握り、気合いを入れ直すと、遅刻ギリギリでほとんど人のいない校門をくぐる。
あまり混み合う時間だと、俺を見て怯えたり、噂話をしたりするやつがいるので、なるべく遅くに登校するようにしている。
だから、大抵、下足場にはクラスメイトは誰もいない。
…はずなんだが。
「…ひゃっ!」
短い、驚いたような声。
綺麗な黒髪をなびかせながら、ひとりの女生徒が、下足場にやって来た俺を見て身体を震わせた。
それは俺の寝不足の原因…
(…ささささささ阪口さん…!)
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