阪口さんの戸惑い

3/11
1767人が本棚に入れています
本棚に追加
/373ページ
「…わ! お、大野くん…!」 だらけまくっていた私は、慌てて背筋を伸ばす。 その様子を見て状況を悟ったのか、男子生徒…大野くんは眉をひそめた。 もともと険しい顔つきの彼は、より一層凄みを増す。 …恐い。 ――大野 聡一郎(おおの・そういちろう)くんは、ちょっとした有名人だ。 それは、彼のこの雰囲気に由来する。 高い背に、引き締まった身体、睨んでいるかのような目付き。 そして、そんな鋭い目の下…右頬には細い三日月のような傷痕がある。 外見の印象は、どこから見ても不良のそれで、入学式からとても目立っていた。 周りの新入生は彼を遠巻きに眺め、早々に噂話を始めた。 同じクラスになった私も、カツアゲでもされるんじゃないかとビクビクしながら過ごしたのを覚えている。 まあ、その心配に反して、入学して半年たった今も、大野くんは暴れたり、問題行動を起こしたりはしていない。 むしろ学校では至って静か。 親しい友人もいないみたいで、いつも1人で過ごしている。 でも、その寡黙さが却って近寄りがたい雰囲気を呼ぶみたいで、大野くんに対するクラスメイトの印象は大して変わっていない。 …不良っぽい、恐い…人。 実際、外ではケンカばかりしてるだの、他校生を怪我させただの噂をよく聞く。 そんなわけで、大野くんはどちらかと言えば悪い意味で有名人なのだ。 …でも。 でも、私は…
/373ページ

最初のコメントを投稿しよう!