阪口さんの戸惑い

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「…あ、あの。ごめんね、大野くん。 私、しばらく日誌終わりそうにないかも。 あと日直の仕事はこれだけだし、書いて提出しておくから、大野くんは帰っていいよ」 そう言って、少し緊張しながら大野くんに笑いかけると、彼は黙って顔を背けた。 そのまま黒板に向かい、チョークの補充をして、脇に置いてある花瓶の花を整理する。 …あ。やばい。 日直の仕事、まだあった。 「あ、ご、ごごごごめん、大野くん! わ、わ、私やるからー!」 「…は? 別に。俺も日直だし」 「で、でも大野くんは、ごみ捨ても行ってくれたし…」 「…関係なくね。 それより、早く書けよ…」 「……」 それもそうだ。 私はシャーペンを持ち直し、今度こそしっかりページと向き合う。 大野くんは、その間も日直の雑用を片付けてくれていた。 誰もやらないような些細なことまで。 (…真面目…だよね…) 私達は、出席番号がそれぞれ男女の『7』番。 いつも日直はペアだ。 はじめは、もう私一人でするしかないと思い詰めていたのだけど 大野くんは、ビックリするほど丁寧に仕事をこなしてくれる。 しかも、そそっかしい私のフォローも完璧だ。 もっとも、ほとんど喋らないし、全く笑わないし、恐いことには変わりはないのだけれど。 綺麗にいけられた花瓶の花に、 使いやすいように整理された新しいチョークに、 私は、大野くんの意外な一面を見つけた気分になる。 それはきっと、…私しか知らない。
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