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――それから10分くらいして
私にしては空前のスピードで、何とか日誌を書き終えた。
「…終わった…。
大野くん、終わったよ~。ありがとう!」
「……」
両手をあげバンザイした私を、相変わらず不機嫌な表情で見やる大野くん。
口だけ動かし『別に』と呟いた…ように見えた。
「…ごめんね、何だかんだで大野くんにも残ってもらって。
ね、…今日…大丈夫?」
「……何が?」
「予定だよ~。今日、観月祭りだから。
大野くん、誰かと約束とかしてないのかな…って……」
言いながら、『あ、こんなこと聞いたらマズイかな』と、今更後悔した。
…『観月祭り』は、ここらで一番大きな秋祭り。
夏の花火大会なんかに比べると地味だけど、その分ゆっくり回れるから、高校生にはデートイベントとして有名だ。
実際、今日こんなにも教室がガランとしているのは、私がポカをしたからだけでなく、観月祭りで帰った人が多いというのが最大の理由と言ってもいい。
そんなわけで『観月祭り行く?』と言うのは、本日限定の挨拶の常套句だけど…
大野くんにそんな馴れ馴れしい話題、よくなかったかもしれない。
『テメエに関係ねえだろ』。
きっと、そんな風に言われちゃう。
ああ…
日誌が終わった解放感で調子に乗ってしまった。
(ど、怒鳴られたら真っ先に謝ろう。
大丈夫…誠意を持って謝れば、許してくれる…)
大野くんの不機嫌な声に備え、身体をかたく強張らせる私。
すると。
「…そっちは…どうなんだよ…」
返ってきたのは、予想外の言葉だった。
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