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「そう……ですかね」
あまり自信は持てない。兄さんが自殺した原因に、僕のことが一分たりとも含まれていないとは言えないのだから。
「ええ。仕事でのストレスや、君の知らない事情があったかもしれません。状況的には、自殺としか思えませんから」
いつの間にか、辺りにいた警官は少なくなっていた。
まだ、自殺というその言葉を信じたくはない。そうだ、自殺とは限らない。まだ、殺された可能性だってーー。
「我々の判断としては自殺です。自殺の動機はこちらでも調べてみますが、それでいいでしょうか?」
「はい、お願いします」
自殺でも他殺でも、兄さんが死んだということ、そして生き返らないという事実は変わらない。
でも、もし他殺だったのなら、その時は許さない。絶対に、許さない。
見つけて、そして……どうするのだろう。犯人に謝られても意味がない。……今は、いい。まだ、自殺かもわからない。あるのはただ、兄がこの世にはいないという事実だけ。
それに、僕にはやらないといけないことがある。勉強に、これからの生活、考えないといけないことが多い。身の回りの状況が変わっても、現実が僕に合わせてくれることはない。
完全に切り替わるには、まだまだ長い時間が必要だ。
「それでは、我々は引き上げます。早く立ち直れることを願っています」
「ありがとうございます」
警官の人は一礼をして去っていった。
あとに残された僕は、重くなった頭を膝に落とした。残されたというよりも遺されたような気がする。
この家にいるのは、もう僕だけ。初めは四人いたはずの家がとても広く、虚無感が隙間を埋めていくように思えた。
外では赤い回転灯が闇を照らしている。
暗い気持ちになっても、明るくしてくれる人はもういない。
遠ざかっていく赤を窓越しに見ながら、僕はそれを改めて実感した。
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