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「いったい、お前は?」
「……」
老女は無言のうちにゆるりと立ち上がると、踵を返した。
「ついて来な」
老女の後について、林の中の小川沿いの小道を歩いた。
途中、脇の木蔭に椎茸栽培のために組まれた丸太木を見つけた。
ここに、人が住んでいるのか?
ぼくは、ぶつぶつと独り言を云う老女の背中を見て、魔女を連想した。
数分ほどして、林を抜けたその先に小さな沼が現れた。
水車小屋が見えた。小川の水を利用して、水車を回しているのだ。
普通、水車というものは、クルクルと回転するものだが、それは違った。
ギギギ、バタン! ギギギ、バタン!
半回転すると、また元の位置に戻る反復運動を繰り返していた。
歯車がうまく噛み合っていないのだろう。
水車小屋の前で立ち止まったぼくを、置き去りにした老女は、沼のほとりに建つ平屋のログハウスへと姿を消した。
「沼のほとりの、魔女の家」そのフレーズがぴったりの、半分ツタに覆われた古ぼけたログハウスだった。
ログハウスの前には小さな畑と、脇には家畜小屋があり、数羽の放し飼いにした鶏が地面をついばんでいた。
「やはり、あの老女はここに住んでいる」
巨大な六枚の壁に囲まれたこの閉鎖された空間で、まさか人が住んでいるなんて、想像もしていなかった。
老女の後に続いて、ログハウスの中に入ると、その答えが分かった。
部屋の隅に置かれたベッド、壁に吊るされた干し芋や魚の保存食、蔓つるを編んだ籠、暖炉の火にかけられ、蒸気をあげる鉄瓶。
部屋の中央に置かれた丸テーブルの上には、土器製のマグカップと皿にのった一切れのナンと目玉焼き、それに、豆やジャムなどの瓶詰めの容器が並んでいた。
どうやら、朝食の途中だったようだ。
暖炉にくべられた蒔きが、パチンと乾いた音を立てた。
「座れ」
勧められるままに、テーブル席に着くと、老女は背を向けて、棚へと歩み寄った。
また、不意をついて襲って来るかもしれない、いつでも応戦できるよう、刀をテーブルのふちに立てかけた。
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