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大志の頬から手を放し、視聴覚室を出ると、進路指導室へ走った。
進路指導室の扉を開けると、小春が大学の資料を見ながら順番を待っていた。
良かった。間に合った。
「香川くん、どうしたの?」
俺の方を見る小春の手には、福祉大学の資料が持たれていた。
それを小春から奪い取る。
「大志に全部聞いた。小春のやりたい事は福祉じゃないよね? 保育だよね? 小春が行かなきゃいけない大学は福祉大学じゃないよね?」
「…大志くんに全部聞いたなら分かるよね? 私は保育士さんにはなれない」
小春が顔を歪めながら、俺がさっき奪った資料に手を伸ばしてきた。
俺は小春より身長は低いけど、力は俺の方が断然上だ。
いくら小春が資料を引っぱったところで、絶対に渡さない。
「俺にはサッパリ分からない。なりたいものに手が届くなら、なるべきだと思う」
「嫌がる誰かがいるのに、それでもなりたいものにはなるべきだって言える?」
俺を睨む小春の目に、薄ら涙が滲んだ。
『子どもが高所恐怖症になる』
言葉の刃が与える痛みは、一瞬じゃない事を知る。傷つけられた小春の心は、今も傷んだままだった。
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