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《心配御無用でありマス! こちらの指示に従っていただければ、何の問題も無いのでありマス》
徐々に艦影が近付いてきて、どこか聞き覚えのある声だと感じた頃、ようやくブリタニカの安物レーダーも、こちらに近づく“艦艇”の影を捉えていた。
「JMSDF-Abukuma」と表示されたマーカーは、あの艦が、“彼女”が、日本国海上自衛隊護衛艦【あぶくま】である事を教えていた。
《ルキ、くまちゃんよ》
「みたいだな。ますますチョロいぞ。あいつはバカだからな……」
普段は被らないフルフェイスのヘルメットを被り、素知らぬ顔で大人しく海面二メートルの高度に滞空しているうちに、完全に観念したと思ったらしい【あぶくま】はその巨大な艦体をゆうゆうとジェットバイクの脇につけた。
波が立たないような配慮が見える辺り、やはり海自艦(こいつら)は人がいい。
……いや、“艦”がいい。と言うべきか。
アメリカの軍艦ならこうはいかない。
以前、【キティ=ホーク】に拿捕されかけた時の事を思い出すと背筋が凍る。
「御協力、感謝するでありマス!」
頭の上から声。
今度は無線ではなく肉声だ。
見上げるような船体の甲板からひょこと顔を出したのは、年齢は15から17くらいにしか見えない少女だ。
彼女こそが【あぶくま】その艦(ひと)。
この巨大な船上に只一人。
特殊な脳波によって、操舵から兵装の使用まで一人でこなす生体兵器。
白い詰襟の軍服を着て、あぶくまはびしりと敬礼して見せた。
「“小艦”は日本国海上自衛隊護衛艦【あぶくま】でありマス。海上警備行動中につき、ご不便をおかけするでありマス!」
「……ごくろーさん」
「恐縮でありマス。なに、簡単な聴取でありマス。小艦が軍艦だからといって怖がる必要はない、でありマスよ」
こうやれ。とでも教えられているのか、あぶくまはこちらを安心させるような人懐っこい笑顔を浮かべる。
かっちり糊の効いた詰襟に身を包んでいても、背後に鉄(くろがね)の砲塔が見え隠れしていても、つい気を許してしまいそうになる自然な笑みだ。
頭の上に浮かんでいる通信機か何かのようなデバイスがなれけば、つい兵器である事を忘れてしまう。
まあ、日本の軍隊はイメージが命らしいから仕方がないが……
「まずは御名前を……」
「くま……いや、軍艦さん。その前にちょっといいか?」
準備はいいな? ブリタニカ。
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