欠ける僕と、満ちない君

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「2」 日が遠くに隠れているある早朝のこと 僕は女の子と一緒に河川敷を散歩していた そばを流れる川の水が音をたてて、まるで歌ってるみたいだ 僕はその穏やかな歌を聴きたくて、河川敷に座り込んでいた ぼくにとっては、この歌は毎日が新しいものだったから 「×××(僕の名前)はいつもここに座るよね。毎日ここで、耳を澄ませてる」 そうだ、僕はいつもここにいる まるで亀のように、ずっとここにいる 「僕をおいては行かないの?」 そうすれば女の子は、いくらでも走っていけるのに それこそ兎のように、河川敷の向こう街まで走っていける 僕の問いに、女の子は笑っていた ………… 「行かないよ。行けないし、行かない。私は亀にはなれないから」 「そっか。僕も兎にはなれないな」 「うん。ならなくていいよ。そうじゃないと、兎だけになっちゃう」 「兎だけじゃ走っていけないから?」 「そうだよ。だって私には、×××(僕の名前)に聞こえる歌がわからないもん」 ………… 男の子と女の子だけがわかる言葉遊び 兎と亀の散歩は、あなたにはどう映る?
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