欠ける僕と、満ちない君

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「5」 お腹も満ちた昼過ぎのこと シトシトと雨が降り、庭の草木を、地面を潤している さっき太陽を隠したのは雨雲だったらしい 「雨だね」 「うん。雨になったね」 「ただ曇るだけじゃなくてよかった」 「うん。雨が降ってよかった」 どちらともなく、同じことを考えた 女の子は僕と同じことを言った ケロケロと雨蛙が鳴く 雨蛙も、この雨を喜んでいるのだろう 「今夜はきっと、綺麗な合唱が聴けるね」 「そうだね。きっと聴けるね」 僕は目を閉じて、きっと聴くだろうその歌を想像する それは、どれだけ僕に届くだろうか ーーーーー 「でも、その歌は完成しないよね」 「そうだね。でも、深く深く……聴き手に伝わればいいな」 「僕が聴けるのは今だけ。今しかないんだ。だから、今夜が楽しみなんだ」 「私は雨を降らし続ける。満月に向けて、聴くことをやめない。今夜はきっと、いい歌が聴けるよ」 ーーーーー 男の子と女の子だけがわかる言葉遊び あなたはその雨を喜べますか?
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