48.再会の日 

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花桜や皆から貰った路銀で、 時折、休憩するもののそんな人たちの会話を聞いてたら イライラして思わず、右手を握りしめる。 爪が食い込むほどに強く。 何日も何日も歩き続けて、 ようやく見慣れた景色に続く萩の城下町。 その道を走り抜けると遠い記憶の中の思い出の屋敷が姿を見せる。 その家に向かって私は慌てて駆け出す。 何度も何度も、晋兄に会いたくて通い続けたお屋敷。 この塀の向こう側に、 門があってそこから庭園に造られた小道を通って……。 大きな家が姿を見せる。 庭園の井戸に、昔……いろんなものを冷やして食べた。 井戸の水汲みを仕掛けて、重くて持ち上げられずに落ちそうになった 私を晋兄がヒョイって帯を引っ張って助けてくれた。 そんな遠い昔の思い出が、今のこの屋敷に来ると、 つい昨日みたいに鮮やかに思い出すことが出来る。 「誰かいるのか?」 屋敷の中から不意に声が聞こえて、 私の体はビクリと硬直する。 ゆっくりと振り向いて、 近づいてくる足音に意識を集中する。 「あっ、雅姉さま」 晋兄の奥さんである雅姉さまも、 私にとっては大切なお姉ちゃんだった。 だけど今の私はこの姿で雅姉さまに会うのは 初めて。 初めましてってちゃんと言わなきゃ。 もう十分怪しいし、不法侵入だけど だけど雅姉さまに嫌われるのは嫌だから。 「あっ、あの……」 自己紹介しかけた時、雅姉さまの口が『まい』と私の名を声にならない声で紡ぐ。
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