48.再会の日 

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そんな思い出の部屋。 部屋の柱。 そうそう、この柱だ。 懐かしくなって思わず触れた傷跡は、 私の成長の記録を晋兄が刻んでくれた証。 この一番低いのが私。 こっちが義兄。 そして、この傷が……晋兄。 そんな懐かしい思い出を振り返りながら、 心がチクリと痛むのは、もう義兄が居ないから。 義兄……ちゃんと近くに居る? 私、今……萩に帰って来てるんだよ。 あの日、私たちが三人で生きていた証が この柱にはちゃんと刻まれてるんだよ。 そんな傷跡を何度も撫でるように触れながら 私はその場で、座り込む。 もうすぐ……晋兄も旅立つ。 この柱には、生きた証は刻まれても私しか生き残らない。 そんな悲しみが押し寄せてくる。 この先の未来の結末を間接的にでも知ってしまったから あの時よりも、心は悲鳴をあげる。 それでも……だからこそ、見届ける過ごした方もあるのだと、 親友(とも)は教えてくれた。 だから……私は前を向いて歩き出せる。 ねぇ……義兄。 ちゃんと晋兄に会えるように見守っててよ。 「舞ちゃん、入るわね」 そう言うと、雅姉さまは再び襖を開けた。 手に持っているのは晋兄からの手紙。 「全部でこれだけかしら?  あの人、手紙だけは律儀に送ってくるのよ。  ホントに男って勝手よね」 そんな風に言いながらも、口元が微笑んでるのは、 雅姉さまも晋兄の優しさと想いを知っているから。 ゆっくりと手を伸ばして雅姉さまへの愛の言葉が紡がれた 手紙を読む。 どの手紙にも雅姉さまを気遣う手紙や読書をしなさい、 和歌を詠みなさいなど綴られていたけど 晋兄の居場所を伝える手紙は、一通もなかった。 「雅姉さま……」 「あの人なりの優しさなのよ。  私たちを争いに巻き込まないように。  舞ちゃん、貴女さえよければ  晋作が帰ってくるまで、ここに居てくれてもいいのよ」 そう言ってくれた雅姉さまの言葉は 嬉しかったけど、私はゆっくりと首を横に振る。 「舞ちゃん……」 ごめんなさい。 私は晋兄に、私の言葉で義兄の最期を伝えたい。 それに……このままここに居ても、 晋兄に会うことは出来ないから。 遠い昔、知ることが出来なかった 晋兄の現実。 それを遠い未来で知り得た 私だからこそ、思える……未来予想図。
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