48.再会の日 

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「えっ……晋兄、誰?」 「舞、態度を改めろ。  今、オレが世話になってるモトさんだ」 そう言うと、その人は湯呑をゆっくりと差し出しながら、 上品に微笑んだ。 「野村望東尼(のむらもとに)。  福岡藩の中村円太さんの縁で、  こうして高杉さんのお世話をさせて頂いています。  遠路、京より高杉さんを訪ねてお疲れ様です」 そう言って迎え入れられたその場所は何だか、 懐かしい感じのする温かい空間だった。 「モトさんは、今やオレたちに取って  母親的存在の人だ。  舞が思っているようなそんな人ではないよ」 庵で暮らす日々は俗世の出来事を全てなかったかのように、 切り離された穏やかな生活。 ゆったりとした時間が流れていく。 「高杉さん、一句書き記しました」 そう言って、私と晋兄が過ごす部屋へ そっと置いて帰った歌。 晋兄は、その句を手にして ただ……遠い空を見つめた。 晋兄の手から、 その句を抜き取って私も見つめる。 * 冬ふかき 雪のうちなる梅の花 埋もれながらも 香やは隠るる * そう記された歌。 冬の最中の雪の中にある梅の花は 雪に埋れると香りは隠れるのであろうか、 いや決して隠れはしない。 そう言う意味で綴られたであろう歌。 多分、この梅は晋兄の事なんだ。
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