49.山南さんと過ごす時間 

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永倉さんと何があったのかって言う 直接の答えは貰えなかったけど、 多分……今、教えてくれたその言葉の中に 全ての想いは詰まっているような気がした。 永倉さんたちの建白書も、 新選組の未来を思えばこそ。 そして土方さんの、非情な選択も新選組の行く末を案じればこそ。 近藤さんが日々、忙しそうにしているのも 新選組のことを思えばこそ。 一見、ばらばらに見える行動も 実のところ、全て同じ目標の為に歩いている。 山南さんの言葉は、 そう言うことなのだと感じた。 私は正直、新選組の為に何かをやりたいなんて 思えないけど、それでも今出来る事を精一杯したいと思う。 志と忠誠心。 その境界線も難しいのかもしれない。 友としての役割。 拡大する組織の中で望まぬ主従関係を強いられる現実。 いろんな思いが 沢山交わり続けてる現状。 そう言った闇を浄化する 必要も確かにあるかもしれない。 山南さんの思いつめた表情と 浄化と紡がれた言葉がやけに耳に残る。 私の中に広がる不安を打ち消すように、 山南さんを気分転換させたくて、 話題を変えようと試みる。 「あっ、山南さん。  久しぶりに、稽古見て頂けませんか?  瑠花は稽古相手になってくれないし、  舞は長州だし」 私の言葉に山南さんは、 自らの利き腕に視線を移す。 あっ、そうだ……。 怪我で負傷してから、思うように動かないんだったっと 切り出した後に、ズキンと心が痛んだけど 切り出してしまったものはしょうがない。 「今の私に、刀を振るうことは出来ませんよ」 そう告げた山南さん、私は別の言葉を切り返す。 「刀を振るうことだけが師ではないですよね」 そう告げると、山南さんは書物に栞を挟んで ゆっくりと立ち上がると私の前を歩き始める。 お寺の境内。 山南さんから手渡された木刀を手に、 素振りを何度も繰り返す。 その一刀、一刀に対して事細かに、 確実な助言を切り返してくれる山南さん。 素振りの後は、山南さん自身も木刀を手にして 私の相手をこなしてくれる。 あれっ……山南さん動かせてる。 全く動かないと思っていたのに。 無心に打ち込む私の相手をした後、 『山波君、随分と重い打ち込みになってきましたね』 山南さんのその言葉で、私はゆっくりと彼にお辞儀を済ませた。
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