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「私の居場所が……そうですか」
山南さんは静かにそう告げると、
ゆっくりと目を閉じて小さく息を吐き出した。
「山南さん。
山南さんに何かあったら花桜が悲しむの。
花桜をもう辛い目にあわせたくないの。
だから……」
だからお願い。
まだ逃げられるうちに運命から逃げ出して。
そしてその運命すら、なかったことにして欲しい。
花桜と明里さんと山南さんと三人でこの場所から逃げて貰う。
花桜は何処かのタイミングで未来に帰れるかも知れないけど、
山南さんと明里さんがいれば、花桜の山波家は存続されるし、
花桜の遠いご先祖様も山南さんに会える未来に変わるかもしれない。
何考えてるんだうろ。
自分でも、笑っちゃうほど次から次へと想像だけが膨らんでいく。
山南さんの死が回避された時の物語。
だけどそれは……夢であることには違いなくて。
「山南さん、それにこのままじゃ土方さんとも衝突しちゃう。
山南さんが新選組の中で孤立してしまうから」
ただただ、山南さんの気持ちを動かしたくて
必死に告げる言刃(ことば)。
暫く続いた沈黙の後、彼はただ穏やかに微笑んだ。
不気味なほど、静かに。
そしてその静かな瞳の奥には何か芯があるようにも感じた。
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