38人が本棚に入れています
本棚に追加
有能な専務として活躍していたのに、今ではスクラップだ。
(それにしても、妻にあんな粗暴な一面があるとは)
頬についたアザを設楽はさすった。
(もう、おれに愛想が尽きたかもなぁ)
熟年離婚など老いた身には辛すぎる。不安を感じるものの、どうしても自分の暴走が止まらない。
イライラの正体ならわかっている。過去の自分と今の自分とのギャップに苛立つのだ。
郵便ポストを覗いてみて、ふと思う。(今までペコペコしていた連中も、肩書きが外れただけでハガキ一枚よこさない、世の中なんかこんなもんだ)
それは自分ではなく、背後にいる会社に頭を下げていたから――そんな理屈くらいわかっている。わかっているが、なんともやりきれない。
(やめろ、未練たらしい)と、過去にこだわるバカバカしさはわかっているつもりだが、どうしても《おれの人生とは、なんだったのか?》などと思いつめてしまい、お気楽に《これからは第二の人生!》なんてプラス思考になれないでいる。
(なら趣味でも持てばいいのか?)
これまで仕事中心の生活を送ってきたので、設楽には趣味というものがない。
家でゴロゴロしながら読書三昧を楽しもうとしたが、そんな枯れた生活も数日で飽きて、朝になると出勤しているかのように背広姿で家を出て、あてどもなく散歩する毎日だ。
最初のコメントを投稿しよう!