プロローグ

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 (職もないのに背広姿なんて、なにを考えているのか)  と、ぶ厚く化粧をして素顔を隠したピエロになったような気がするが、オーダーメードの背広を着ていると、本来の自分に戻ったようで気が落ち着くのだ。  家には古い丹前があるばかり、部屋着などというものに無頓着だったので、他は若い頃に買ったトレーナーに古ぼけたジーパンしかない。  その現実に向き合うのが嫌で、かれにとって家にいるのが億劫で仕方なかった。  (それなら仕事を探せばいいじゃないか)  と、職を探したが、若者でさえ求人に苦しんでいるこの時代、働かせてくれる職場がない。  専務だったのだ、掃除人夫や警備員のアルバイトでは惨めすぎると下に見ていたが、このあいだ職業安定所へ行ってみたら驚いた、その職場でさえ雇ってもらえなかったのだ。
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