第1章

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 「猫を笑わせろ」   私は今こんな夢の中にいる。私は試験を受けている。「ミカンで笑わせる方法を考えよ」「最近笑えたことは何か?」「次の語句に続く語句を考えて、面白いギャグを作りなさい」  私は笑いの共和国に迷いこんだのだ。ここでは、笑い検定試験に合格しないと、思うように生活ができない。食料配給切符ももらえない。笑わない者は病気になりやすいとデータを示されて脅されたりもする。だが、ここでは、笑わない人にはいろいろと声をかけてくれる。困っていることを減らすことにみんなが努力をしようと試みる。  私はまず、お笑いの塾を紹介された。そこの先生はボランティアでユーモアのレッスンをしてくれる。ユーモアの師範を目指しているのだ。笑い検定試験には、英検のように5級から1級がある。私の先生はもちろん三段を目指している。この試験に通れば、月給五十円がもらえる。五十円と言えば、遊んでくらせる大金である。神社に行くと「金、参拾円」などと書かれているではないか。ただ、『坊ちゃん』の中に『出来ないものを出来ないと云うのに不思議があるもんか。そんなものが出来る位なら四十円でこんな田舎へくるもんかと控所へ帰って来た。』というのがあったぞ。すると、この物語は明治時代でもないのかもしれない。なんでも、ここは、独自の経済システムで動いている。一人一人の幸福を基準に設計されている。日々どれだけ笑えるのか、お日さまにどれだけ感謝しているかが、重要なのだ。我々は、資本主義か社会主義かで考えるが、ここでは、日本主義経済が営まれている。  「こんな所でも笑う人は笑うんですね」 「違う、こんな所だから笑えるんだ」先生は答えた。 「まずこれを読みたまえ。ユーモアの構文集だ。ためになるぞ」 たくさんの、例文が出ている。面白いものも、そうでないものもある。とにかく、量に圧倒される。途中まで読んでみて嫌になってきた。一つ一つは面白くても、束にかかってやって来られると苦痛にすらなってくる。 「この構文集はユーモアに関するものだけど、全然面白くないじゃないですか?」 「ユーモアを習得するのは、楽しいことでもあるが、反面きついことでもあるんだ。ユーモアの技術を身につけることは苦しいことなのさ」 「ギャグがうけなくてもいいじゃないですか?」
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