03...観察【Side:山端逸樹】

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 ゴムだけ買ってさっさと帰るつもりだったけど、しばらく彼の様子を観察してみるのも悪くねぇかも。 (ま、暇だしな)  天気予報では、明日は雨になると言っていた。  恐らく現場のほうも、途中で作業中止になるだろう。  役所に出す書類や、製図のようなデスクワークが溜まっていないわけじゃないが、別に急を要すものじゃない。  元々身体を動かすほうが性に合っているから、下請けに混じって土方の真似事なんかやっちゃーいるが、俺の本職は現場監督だ。  同僚のほとんどは現場自体には手を出さず、上から指示を出すだけらしいが、そういうのは何か面白くない。  現場が理解できない頭でっかちの輩は、結局根本的なシステムが分からずに職人とよく揉める。  私生活は荒れているが、仕事の上では善人面をすることに徹している俺は、そういう部分でトラブルを抱えるのが好きじゃなかった。  両親が敬虔なプロテスタントだったからだろうか。その期待に応えようと、俺は子供の頃、親の前では良い子を演じていた。  でも、一歩裏へ回れば神様なんて糞食らえだ、と本気で思っていた。  その神様のお陰で、俺は一人っ子だったにも関わらず、親の愛情を独り占めできなかったからだ。  隣人には良くする両親が、その反動か、息子である俺のことはないがしろにする。それが哀しくて親の注意を惹こうと良い子を演じた俺は、やがてそのせいで「手のかからない子」としてますます放置されるようになった。  今となっちゃあ、別に親がどう思っていようが関係ねぇと断言できるが、実際は結構トラウマになっているらしい。  どこかの部分では完璧な善を演じ、裏側では欲望のままに行動する。  理解は出来ていても抑えられない二重人格ぶりに、自分でも時折嫌気がさす。
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