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スキンを一箱手にとってから、ふと棚越しにレジの方を見遣ると、自分のネームプレートを見つめてゆらゆら揺れる彼が目に入った。
(あいつ、何やってるんだ?)
他人に対して滅多に興味を抱かない俺が、何故か気にかけてしまった。
(おい、冗談だろ)
それに気付いて思わず舌打ちする。
頭を二、三度振って気を取り直すと、俺は手当たり次第に酒を手に取ってから、無表情でレジに向かった。
心を落ち着けるため、なるべくそっと商品を台に載せると、見るとは無しに彼の胸元のネームプレートを見遣る。
(ミキナオト? いやもしかしたらナオヒトか?)
気付けばそんなことを考えている自分に驚く。
で、危うく本来の目的を買い忘れるところだった。
「あとこれも」
なるべく感情を悟られないよう気を付けながらゴムを酒の横に並べると、俺はわざと見下すように彼を見つめた。
その途端、店員の顔に朱が差した気がして、俺は思わず目を眇める。
(気のせい、だよな……)
盛りの付いた俺じゃあるまいに。
そう思ってから、顔には出さず苦笑する。
子供の頃からの訓練のたまものか、俺は感情を表に出さないことに長けていた。
と、目の前の店員がレジを通し終え、いざ釣りを渡すぞという段になって話しかけてきた。
「…こんな飲んだら」
眠気で少し朦朧としているのか、潤んだ瞳はそのままにそう呟いてから、少し動揺したようにオロオロとする。
その様が可愛くて、俺は何も言わずに彼を見つめた。
「――勃つもんも勃たなくなりません?」
一呼吸置いて発せられた言葉に、俺は思わず笑ってしまった。
(こいつ、気に入った……!)
その思いを抑えながら、俺は彼の耳元に唇を寄せた。
「そんなん心配して……あんた、俺の相手をしてくれんの?」
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