23...惚れた弱み【Side:山端逸樹】

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 食べたか食べないか分からないような朝食の後、医者の診察を上の空で受けた俺は、会計を手早く済ませて退院手続きを終えた。  愛車は会社に置いたままだったから、帰るとしたら歩きかタクシーということになる。  本当は歩いたって知れた距離だったけれど、少しでも早く家に辿り着きたくて俺はタクシーを選んだ。  ワンメーターで下車するような客を乗せたにもかかわらず、俺に割り当てられたタクシーの運転手は惚れ惚れするほど愛想のいい男だった。 「着きましたよ」  嫌な顔ひとつせず、そう言って後部座席を振り返った若いドライバーに、俺は感謝の気持ちを込めて多めに金を支払った。 「釣りはいいから」  急いで小銭を取り出そうとする彼をその言葉で制すると、満面の笑顔で「有難うございます! お気をつけて!」という言葉が返ってきた。  それを背中に受けながら、俺は見慣れたアパートの前に立つ。
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