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どこかで、扉が開くような音を聞いた気がした。
いったいどこの扉の音だろうと思って、辺りを見渡してみたけれど、どこにもそれらしき扉はない。
それどころか、目の前にはただ真っ白な空間が広がるばかりで、手を伸ばしてもその指先に触れるものは何もなかった。
だけど、そんな中、ふと耳に届いたのは鳥の声。
次いで、身体がふわりと温かくなった。
「…ん……」
漏れた吐息は無意識だった。
と、徐々に背中に柔らかなソファの感触が戻り、俺は夢現の境で小さく身じろいだ。
「――…」
ほとんど眠っていなかった所為だろうか。
遠くない距離に、何か気配を感じても、すぐには瞼が上がらない。
室内の明度もあって、閉ざされていても視界はどこか明るさを保っている。
それがふと一瞬暗くなり、刹那唇に落ちてきた憶えのある心地に、
「……っ」
俺は小さく息を呑んだ。
急速に浮上する意識は、それでも現状を把握するには時間がかかり、結局俺が目を開けたのは、彼の手が直接俺の肌へと触れてからだった。
「…ちょ、なっ……」
いつのまにかかけられていた毛布の下で、彼は俺の服の裾から指先を差し入れ、まるで感触を確かめるみたいな手つきで、素肌の上を撫でている。
遅れてそれを理解すると、ざわりと背筋が粟立つような感覚がして、俺は咄嗟に彼の手首を掴んだ。
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