04...最初の逡巡【Side:三木直人】

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 自動ドアの前に立ち、一歩だけ外にでて、周囲を一望してみるが、やはり例の客の姿はどこにも見当たらない。 (…拾ってったの、500円玉かよ)  あの客に返すはずだった釣りは、咄嗟にジーンズのポケットに突っ込んでいた。  俺はそれを無造作に掴み出し、開いた手のひらを何気なく見詰めた。  残っていたのは、100円以下の硬貨のみ。釣りは700円程度あったのに、500円玉だけが無い。 (案外、せこいヤツなのか……?)  言える立場ではないけれど、考えたら思わず笑いが込み上げた。  俺はカウンターに戻り、端の方に投げたままだった小箱を、当初の予定通り透けない紙袋に入れた。  釣りの方も一緒にそこに放り込み、口が開かないように封をする。 (面倒だけど……仕方ねー、届けてやるか)   店に置いといたって、商品が商品なだけに恐らく取りには来ないだろう。  釣りも渡し損ねているけど、結果としてはそれも心の中で謝罪をしてすませるしかない。  そう、普段なら、確実にそうしていた。  だけど、俺は彼が日中、どこにいるのか知っている。  待っていれば、再びここに来店することだってあるかもしれないけど、それがいつになるかはわからないし…。
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