25...一喜一憂【Side:山端逸樹】

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 あの事故の後、社長から「今回だけは」と一切お咎めなしにしてもらった俺だったが、それだけに今まで以上に仕事に精を出さねばならなくなった。自然残業も多くなる。  直人は直人で週に三日はバイトが入っていたし、下手をすれば会えない週だって出てくるわけで。 (もう十日)  直人としていない日数を換算して溜め息をつく。  俺が感じている不安の、一番の原因はこれだと思う。  毎日毎日ベッタリくっ付いていなければいけないとは思わないけれど、三日以上温もりを感じられないのは正直辛い。  直人を疑うわけではないけれど、俺ばかりこんな風に悶々としているんじゃないかとか考えたりすると、本当に落ち着かなくなって――。 「雨、か……」  事務所を出たと同時に鼻先を水滴が掠めた。その冷たさに空を見上げて無意識にそう呟いてから、一層憂鬱な気分になる。 (いや、そうでもないか)  このまま本降りになってくれれば、外での仕事は幾分制限されるはずだ。とすれば、いつもよりも早く帰宅できる可能性が高くなる。  幸い今日は木曜で、直人もバイトは休みのはずだ。  ふと時計に視線を落とすと、十三時を回ったところだった。
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