25...一喜一憂【Side:山端逸樹】

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 十五時を回った辺りから本降りになった雨のお陰――というのも変な言い回しだが――で、現場は早々に作業を切り上げることになった。  工期にもまだまだゆとりがあるし、このペースで行けば余裕で工期内に完成させられる工事だ。何もこんな日に皆を無理させることもない。  そう考えてから、いや、と頭を振る。そんなのは大義名分だ。実際は俺が直人に逢いたいから早めに片付けをさせただけ。  仕事に対して手を抜くつもりはないが、これではそうだと思われても仕方ない気がする。 (ま、最近残業続きだったし……たまにはこのぐらいのワガママ許されるだろ)  言い訳のようにそう考えて苦笑する。  やっぱり直人が絡むと調子が狂う。  それが嫌じゃないのがまた困りものなのだ。  一旦事務所に帰ってから、愛車で出直そうかとも考えたが、そうすると何となく同僚たちの視線が煩わしいような気がして、俺は結局会社の軽トラのまま直人の学校へ向かった。  多分、後ろめたさがそうさせたんだと思う。  送り迎えが軽トラというのは余り冴えないが、直人は女じゃないからそれ程気にはしないだろう。  間欠がない分、常に忙しなく動き続けるワイパーを見詰めながら、ふと苦笑する。  俺はどんだけ直人のことが好きなんだ……。  そんなことを思ったら、何だか可笑しくなった。  少し前の俺からは想像もつかない行動に出ている自分が、馬鹿らしくもあり、愛しくもある。  直人が居ない人生なんて今の俺には考えられないし、考えたくもない。  間断なく降り続く雨のせいで煙ったように見える窓外に、直人の学校が見えてくる。
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