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ワイパーの作り出す束の間の視界に目を凝らすと、校門前にいくつかの人影が見えた。
「いた……」
その中のひとつに、目当ての人間を見付けると、俺の目にはもう、他の奴らの姿は入ってこない。
いくら雨でクリアに見えなくても、彼を見間違えるはずはない。
傘を片手に佇む直人の足元は雨で濡れそぼっていた。
手にした傘も、以前彼が俺の現場に初めてやってきたときと同じビニール傘で。あんな小さな傘ではこの雨に対処するのはきつかろう。
校舎からここまでの道のりであんなに濡れてしまうのだ。矢張り迎えに来て正解だった。
生憎学校は反対側の車線に面していたので、俺は一旦校門前を通過してから、少し先のところでUターンをしてくることにした。
そうして戻ってきてみると――。
俺は一気に機嫌が悪くなった。
直人の傍に車を停めて話しかけている奴が見えたからだ。
馴れ馴れしく直人に声を掛け、助手席に乗るよう促している男の顔には見覚えがあった。
(相原……!)
先輩、後輩の間柄なのだから、彼が雨に濡れた直人を見掛けてどうにかしてやりたいと思っても不思議ではない。
でも、俺は相原の雰囲気から、ただ単に先輩によくしたいと思っている後輩以上の何かを感じた。
そう、思ったら居ても立っても居られなくて、俺は乱暴に車を道路脇に停めると、濡れるのも構わず車外へ飛び出した。
「直人!」
そのまま大股で直人に歩み寄ると、相原から奪うように直人の手を引いた。
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