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「えっ? ……や、山端さん?」
何でここに?と続けたかったんだろうが、俺の不機嫌な顔を見て直人は言葉を飲み込んだ。
その、戸惑ったような表情が余計に腹立たしさを助長する。
何だってそんなに無防備なんだ、お前は!
思わずそう怒鳴りそうになってから、相原の視線を感じて俺は口を閉ざした。
「……お久しぶりです」
一拍置いて、余裕綽々ににっこり笑う相原の表情を見て、俺はこの年下の優男に負けている気がした。
「……ああ」
不機嫌さを隠さず短くそう返すと、
「ちょ、何でアンタ傘差してねぇんだよ! 濡れてんじゃん!」
直人が、それでなくても狭い傘を俺に差しかけてこようとする。
「帰るぞ」
それを押し留めるように直人の手を引いて歩き出そうとすると、
「先輩は俺の車に乗って帰るから大丈夫です」
傘を差して車からのんびりと降り立ちながら、相原が言った。
「ねっ? 先輩!」
「……え? あ、……うん」
邪気のない――ように見える!――顔でにっこり笑う後輩にそう答えながら、直人が困ったような顔をして俺を見る。
「先にそう約束しちゃったんだ。まさか……山端さんが来てくれるとは思わなかったから……」
だからあっちに乗って帰ってもいいだろ?と問いたげな直人の表情を見て、俺は憮然と言い放つ。
「お前、今日、バイクは?」
「え?」
自分が言ったセリフを完全に無視した俺の発言に、直人が思わずきょとんとした顔をする。それでも俺の機嫌の悪さに気圧されたのか、
「駐輪場に置いてあるけど……」
そう、素直に答えた。
「こいつの車じゃ、それ、乗せて帰れねぇだろ」
別に原付なんてどうでも良かったが、何となく勢いでそう言ってから、直人の腕を握る手に力を込める。
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