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「じゃあ、山端さんは先輩のバイク、乗せて帰ってあげてください。俺は先輩乗せて帰りますから」
俺たちの横に並んだ相原が、さも他意はないのだ、という顔をしてそう言ったが、絶対に違う。
(こいつ、まさか直人に……?)
そう思ってから、俺は相原をどうにかしておかなかった自分を呪わずにはいられなかった。
あのまま気のある振りをして二股をかけ続けておけば、こんなことにはならなかったんだろうか。
そんな風に考えてから、それじゃあ直人が振り向いてくれるはずがないだろ!と気が付いてムシャクシャする。
「直人……」
八方塞がりな気分でそう告げた俺の表情は、もしかしたら物凄く情けないものになっていたのかも知れない。
雨に打たれながら彼の顔をじっと見詰める俺を見て、直人が苦笑交じりの溜め息をつく。
「相原、先に車で待ってて。すぐ行くから」
ややして、傍らに立つ後輩にそう告げて彼を遠ざけると、俺に傘を差し掛けるようにして耳打ちをした。
「……原付、いつものところに停めてあるから……やま、逸樹さんの家に運んどいてよ」
そう言って俺の手に、キーホルダーから外したバイクのキーと傘とを握らせると、提げていた鞄を頭にかざして相原の車のほうへ行ってしまう。
呆然とその後姿を見送っていたら、
「ちゃんと着替えて部屋温かくしとけよ!」
相原の車に乗り込み際、直人がそう叫んだ。
彼を乗せた車が走り去っていくのを見詰めながら、俺は直人には敵わないな、と思わずにはいられなかった。
直人なら大丈夫。絶対、俺を裏切ったりしない。
自信と不安が入り混じる心に、そう言い聞かせながら――。
俺と直人の関係は始まったばかりだけど、何だか精神面では思いっきり俺が完敗している気がした。
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