04...最初の逡巡【Side:三木直人】

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(……つーか、元はといえば向こうが悪いんじゃねーか)  そうだ。そもそもあの客――あの男が、いきなりあんなことを言い出さなければ。  それも、あんな近すぎる距離で、囁くみたいに言わなければ――。  俺だってあそこまでパニくることもなかったはずだ。挙句、こんな風に頭を悩ますことも。 (いや……)  そうじゃない。そうじゃなかった。  俺だ。俺の方だった。最初に妙なことを口走ってしまったのは。  あの時俺があんなことを言わなければ、あの男だって変に冗談で返すこともなく、大人しく買い物だけして帰っていただろう。 (やっぱ、明日にでも届けてやろ……)  気がつけば、盛大な責任転嫁の上、 「やっぱもういっかー」なんて楽観し始めていて、俺は慌てて考えを改める。 (明日って……)  6時に店を上がって、翌日の講義は午後からだから、それまでは寝るつもりでいたけど。  早めに起きれたら午前中、起きれなかったら午後の授業をふけるとかして…。  とりあえずあいつがいるらしい現場を、一度覗きに行ってみようと思った。
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