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朝から空は曇っていたけど、まさかここまで本降りになるとは思わなかった。
軽い気持ちで原付に乗って来たものの、思えばレインコートは数日前に使って部屋に干したままだ。
要するに、原付で帰るならこのまま濡れて帰るしかないと言うこと――。
「あ、いた! ちょっと待って、せんぱぁい!」
講義を終えて、玄関ホールの前で空を見上げていると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その方角を頼りに視線を巡らせると、まもなく前方にある別棟の玄関からこちらへと走ってくる人影が目に入る。
雨の所為でクリアとは言えない視界ながら、それが誰であるのかはすぐにわかった。
「…相原」
彼の手には、購買で買ったばかりらしいビニール傘が握られていた。
ちなみに俺は、そんな傘すら持っていないし、今日だけのためにわざわざ傘を新調する気もなかった。
「傘、持って無いんですか?」
やがて彼は、然程大きくない傘を差したまま、俺の前で足を止めた。
そして普段と変わらない人懐こい笑顔を浮かべ、
「俺、良かったら送っていきますよ」
「傘っつーか、俺今日原付だしな…」
「じゃあ尚更送りますよ。車で。明日も朝俺が迎えに行けば、一日くらい原付置いて帰るのも問題ないでしょ?」
強引でもない気軽な物言いで、緩く首を傾げて見せた。
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