26...届く声(完)【Side:三木直人】

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 俺自身が、元々甘えるよりは甘えられたい側の人間だから、なかなか素直になれないのもあるとは思う。  ここに到るまでの経緯が、余り穏やかなものではなかったことも一理あるだろうけど。  ただ、彼のことを、それならいますぐに手放せるかと言われると、それはそれでうんとは言えないところまで来ていることは確かだから。  だから、今までよりも少しだけ。  昨日よりも今日、今日よりも明日は、ほんのちょっとだけでも。  彼に優しくしてあげられたらと思う。  ――これが、俺のいまの本音。  玄関扉に背をつけて、同じ番号を何度も画面に表示させる。それを無言で耳に宛て、相手が出るのをじっと待つ。  そうして、繰り返すこと10分ほど。 「――…ン?」  と、不意に耳に遠く、憶えのある着信音が聞こえた気がして、俺は落としていた視線を上げた。
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