26...届く声(完)【Side:三木直人】

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 目の前にいるのに、お互いに携帯を耳に当てたまま、 「……歩いて…行こうかと思って」 「それだと結局濡れるじゃねーか。バカだな」 「…バカ……」  あっさり返された言葉を、反芻するようにぽつりと呟く。  だけど今ばかりは否定もできない。  そもそも、ろくに身動きすらできなくなっている。 「入っていいのか。それとも今日はもう用なしか」  直接視線を絡めたまま。  手を伸ばせば、容易く触れることのできる距離で。  彼は目の前に佇み、言葉の割りに、穏やかに笑った。  それに俺は、逡巡するでもないのに、少しだけ間を置いて、 「――入れば」  短く答えた。  携帯を通した声と、直接彼へと届く声で――。 ...end
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