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01...12月と言えば【Side:三木直人】
「は? 保育士?」
そう狭いわけでもない店内に、逸樹さんの声が響く。
周囲の視線を一斉に集め、俺は思わず逃げたいように視線を落とした。
対して逸樹さんは特に気にしてはいないようだったが、
「それで卒業後は実家に帰るってのか」
継がれた声は一応先刻よりは抑えられていた。
次第に向けられていた他人の目も離れていく。
その様子に少しほっとして、俺は改めて頷いた。
「うん、まぁ……働くとこが実家だし。逸樹さんも知ってるだろ、うちが私設保育園やってんの」
視線も彼へと戻し、更に続ける。
「でも別に、車があれば会える距離だし……俺も免許とるから」
「そう言う問題じゃねぇだろ。なんでもっと早く言わねぇんだよ」
言うなり、苛立ちも顕わに逸樹さんはテーブルを拳で叩いた。
さすがに加減はしていたものの、伝わった振動に傍に置いてあるコーヒーカップがカチャリと小さな音を立てる。
(話す順番ミスったよな、コレ……)
自分の目の前のコーヒーも、ゆらゆらと表面を波打たせた。
俺は遠い目でその光景を眺めながら、密やかに吐息した。
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