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(クリスマスの算段かな)
そう。たまには直人のほうから誘ってくれることがあってもいいはずだ。でなきゃ、俺ばかりが彼に入れ込んでるみたいで寂しいじゃねぇか。
そんなことを思いながら、ほんの少しだけ直人が何を切り出すのかを期待していたことは否めない。だが、そこで直人の口から出たのはクリスマスの話ではなく、将来のことについて、だった。
それも相談ではなく、こうしようと思うんだ、という半ば決定された内容のもので――。
直人もバカじゃない。
きっと、そんなことを考え始めたのは昨日今日のことじゃないはずだ。それなのに俺には何の相談もなく、そんな風に進路を決めていたんだと知ったら正直ショックだった。それと同時にたまらなく腹立たしくなった。
「お前にとっちゃ俺はその程度の存在だったってことだよな?」
そんなことを言う場面じゃないと分かっていても、抑えられない激情に思わず吐き捨てるようにそう口走っていた。
頭では直人の将来なんだから俺が口を出すべきことじゃないとも分かっていた。でも、ことここに至るまで何も相談してくれなかった直人に、俺は堪らなく腹が立ったのだ。
「そんなこと言ってないだろ……!」
そんな俺に、直人がそう返してくるのも至極当然で。
それでも俺は、直人の顔を見るのも嫌になるぐらい自分の気持ちがコントロールできなくなったのだ。
「……帰る」
このままじゃ、直人に何を言ってしまうか分からない。
傷つける気持ちなんて毛頭ないし、彼を手放すつもりだって、勿論ない。
だから、今は傍に居るべきじゃない。
言うなり、有無を言わさず席を立つと、俺は伝票を奪うようにしてレジへと向かった。
「……ちょっ、逸樹さん!」
そんな俺を、直人が慌てたように呼び止める声がしたけれど、そちらへは一瞥もくれず、店員に万札と伝票を押し付けて釣りも受け取らずに店を後にした。直人の方を見てしまえば、悔しさに何をしてしまうか分からなかったからだ。
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