03...触れたい温度【Side:三木直人】

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 俺は少しほっとして、けれどつかつかと早足にそちらに近づく。 「ちょっと待てよ、せめて最後まで俺の話……」  運転席側に回り、窓ガラスをコンと叩く。  彼はハンドルに手を置いて、伏し目がちにどことない場所をじっと見詰めていた。  明らかに怒っている。怒っているというか、これは拗ねているという方が正しいのかな。  俺は浅く溜息を吐いて、再度コンと窓を指先で小突いた。  次いで、「ちょっと開けて」と声に出さずに口の動きだけで告げる。 「………」  と、ややして逸樹さんは漸く窓を開けてくれた。  かと言って、何を返してくれるわけでもない。相変わらず沈黙したままだ。  時折吹き抜ける冷たい風も、この妙に気まずい空気までは洗ってくれない。 「ごめんって。俺の言い方が悪かった」  あくまでも頑なな姿勢を崩さない彼に手を伸ばし、その頬に触れてみる。  彼は未だ視線を合わせることすらしてくれない。けれど、その手を振り払うこともしなかった。  無意識に入っていた力が、肩から抜ける。  依然として逸樹さんは不機嫌極まりないようだけど、その微妙な変化に俺は幾分安堵した。 「本当は、クリスマスどうしようかって話がしたかったんだ」  早々に車内に乗り込んでいながら、エンジンはまだかけられていない。  その所為だろうか、指先を添わせた彼の頬は、少し冷たく感じられた。  俺は触れていた手のひらで、宥めるように彼の頬を包み込んだ。  俺がゼミで遅くなった所為で、迎えに来てくれた逸樹さんと共にファミレスについた頃には、既に時刻は八時を回っていた。  要するに辺りはすっかり暗くなっている。当然街灯はあるけれど、幸いにも近くに人影はない。それを知っていた俺は、まぁいいかとそのまま顔を寄せた。  彼の顔を少しだけ引き寄せて、尚もこっちを向かないその横顔に、目じりに、ちゅ、と触れるだけのキスをした。 「……な。ちゃんと聞いてよ。本題は、そっちだったんだから」
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