04...手のひらの上【Side:山端逸樹】

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 04...手のひらの上【Side:山端逸樹】

 勢いで店を飛び出した俺は、しかし車に乗り込むと同時に直人のことを思った。 (置いて帰るわけにゃいかねぇよな)  考えてみれば、今日は俺が直人を迎えに行ったのだ。今、このまま俺が姿を消してしまえば、彼を寒空の下に置いてけぼりにしてしまうことになる。  子供じゃないんだし、そうなればなったで何とかするだろうが、それに気付いていて知らん振りをすることは、俺には出来なかった。 (……くそっ!)  結局俺はいつでも直人の手の上で踊らされている気がする。  彼の言動の一つ一つに一喜一憂する自分が情けなく思えてくるほどに。  車に乗り込んだものの、そんなことに思いを巡らせていたら、エンジンを掛けるのも忘れていた。  と、コン……と窓ガラスを叩く音がして、俺は直人が後を追ってきたことに気付く。正直、それに安堵してしまう自分がいることも事実で――。  それが悔しくて、車外の直人に気取られないよう彼のほうへ視線を注がず小さく嘆息した。  そんな俺に、直人は尚も窓をコツッと小突いてから、口の動きでそれを開けて欲しいと促す。 (……俺も大概甘いよな)  ここで窓を開けたら意味がない。  そう思っているのに、手は自然キーへと向かっていた。せめてもの反抗で直人のほうを一瞥もせずエンジンをかけると、ついでという風にパワーウィンドウのスイッチにも手を伸ばして窓を開ける。
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