04...手のひらの上【Side:山端逸樹】

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 途端吹き込んできた冷たい風に、俺はすぐにでも直人へ助手席に乗り込むよう促しそうになってしまった。エンジンをかけたことで、――まだ冷たい風しか出ていないとはいえ――車内にはエアコンが掛かったからだ。  けれど、素直になりきれずに躊躇ってしまった。  そんな俺の頬へ直人の指が触れ、そうして手のひらで包み込むようにした後、目尻に唇が寄せられた。  触れるか触れないかの軽いキスだったけれど、それだけで俺は舞い上がってしまう。  依然、心の中では大事なことを俺に一言の相談もなく決めてしまった直人に怒っていることに違いはなかった。だが、直人のその仕草でそんなことがどうでもいいことのように思えてしまったのも事実で。  気が付くと、俺は運転席のドアを開けて彼を車内に引きずり込んでいた。  もし目撃者が居たら、人攫いだと勘違いされたかも知れない。  だが、幸いにして夜の駐車場には俺と直人以外の人影はなかった。  それを良いことに、俺はシートを倒すと、直人の上に覆いかぶさるようにして彼を押さえ付けた。 「え、ちょっ」  いきなりの展開に目を白黒させる直人が可愛くて、思わず意地の悪い笑みが漏れる。 「それじゃ、聞かせてもらおうか。その、本題とやらを――」
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